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出版は〈多謝実現〉のサービス業

はじめての方、はじめまして。 二度目の方、にどめまして。
何度かご縁いただいております方々、いつもありがとうございます。

東京は新宿御苑前にございます版元・水曜社の、【魂の出版芸人】こと大畠鎌児と申します。

小規模版元の若輩が書く日誌にどれほどの価値があるのか。われながら大いに疑問ではありますが、順番がまわってきたとのことですので、ひとつお付き合いいただければ幸いです。

さて、水曜社は社歴だけは30年。社会・科学系書籍の版元としてご記憶の方が多いと思われますが、3年ほど前に現社長のもとスタッフを一新。一般書・実用書も含めた幅広い出版活動を行っております。
どういった本を出されているのですか?という質問をよく受けるのですが、弊社HPをご笑覧いただければお分かりいただけるとおり、ジャンルは多岐にわたります。月2冊程度の刊行ペースですので、ある時は「小説&スポーツ」またある時は「音楽&まちづくり」などなど、月々の新刊のご案内は、悪く言えば一貫性がなく、よく言えばバリエーション豊かなラインナップとなっております。
水曜社

弊社の目録をご覧になった方々は、一様におっしゃいます。
「よくこれだけ手広く出せますね」
あ、別にのべつまくなしに出しているわけではございませんで。

実は弊社、純粋な「編集部」というものをもってないのです。

と言いますのも、弊社のグループ企業である編集制作会社・青丹社が編集部門を一手に担っているのです。こちらのほうが母体と呼ぶにふさわしい規模でして(笑)、企業広報紙やPR誌、時には他社版元様の書籍や週刊誌・月刊誌などの定期媒体まで、さまざまなお仕事をさせていただいております。
青丹社

農業、工業、歴史、地域開発、高齢化社会、ビジネス、マネー、パートワーク……これらのお仕事を通していただいた御縁が水曜社の書籍となっていくわけでして、さながら一台の車の両輪、一社の出版部門と編集部門なのでございます。

かくいう私も編集部門・青丹社育ちでございます。
版元編集者は一度は書店営業をやって現場を見るべきだ、なんて声がございますが、私は営業担当だって、編集と一緒に著者やクライアントに会い、一字一句の校正を味わうべきだと思います。
著者との決闘や葛藤やヤットウ、締切間近の胃の痛み、徹夜してトイレで足を洗ってMacの熱でくつ下を乾かす切なさったら、それはもう……(笑)

編集というお仕事は、サービス業かと存じます。
クライアントや著者の要望を叶える「他者実現」と、そこに自分たちが手がける意味──付加価値をもりこんで120%のお仕事を納品する「多謝実現」の両立が編集の妙かと。
「顧客満足」とは、顧客の要望を満たすだけではダメでして、顧客が意識していない潜在的要望を掘り起こして「ソリューションの提供」をして、はじめて「プロフェッション」です。文化的活動であることは当然ながら、その内実はサービス業ではございませんでしょうか。以上、9.8割ほど社長の受け売り。

受け売りついでに申しますと、社長に言わせれば「そもそもクリエイティブな青丹社の編集たちに出版〈者〉としての場を……という思惑で出版事業をはじめたものの、スタッフが出す企画を実現化していたら、こんなラインナップになってもうた!!」とのこと。営業泣かせの多ジャンルラインナップは、かのようにしてできてきたわけですか(笑)

個人的には出版業もまたサービス業である、と考えております。
人々が読みたいと思う本、書店が売りたいと思える本を形にする使命。メーカーとしての版元の至福とは、つくりたい本の実現だけではなく、求められる本の実現にもあるような気がいたします。こういう本をつくる!という、エゴに似た情熱でもってひた走るのは著者であり、版元とは、志は著者と同じくするにせよ、やはり対外的にはサービス業ではないかしらん、と。
編集畑育ちゆえこのように感じるのかもしれませんが、「情報通信業」などと正面きって呼ばれますと、なんだかこそばゆく感じます。

その昔、ハンバーグレストランでアルバイトをしていた経験がございまして、日に100枚以上のハンバーグを焼いておりました。
決められたサイズはたて5cm、よこ9cm、厚さ1cm。重さは180g。ただただノルマ通りに焼き上げていくのですが、鉄板の上でずらりとならぶハンバーグたちはなかなか壮観でございました。手ごねがウリのレストランだったのですが、片手でおもむろに掴んたタネでもジャスト180gを指すようになってきますと、これが自分の天職ではとさえ思ったものです。

ところがある日店長から、その微妙に高くなった鼻をへし折られました。
「お前にとっては1日に焼く100枚のうちの1枚かしらんが、客にとっては今日一日のシメとなる、大事な晩メシの一枚やぞ!」
はっといたしました。
それからというもの、一枚一枚、お客様の顔を浮かべて焼くようになった私は……、時間をかけすぎて、焦げたハンバーグを量産いたしました(ちゃんちゃん♪)

閑話休題。「一枚のハンバーグ」が「一冊の書籍」にかわっただけでして、この言葉は10年以上経った今もなお、私の中で生々しく響いております。

とある大手版元様は、編集ひとりあたりに年商ノルマがあるのだとか。営業ではなく編集にノルマ。それも億単位(版元ドットコム加盟社ではありません。あしからず)。

営業はともかく、編集にノルマというのは、なんともよくわかりません。神保町の大手書店の書店員さまとそんな話をしましたところ、「おたくは月2冊? いいね〜、版元は月に2冊しか本を出しちゃいけないっていう法律ができりゃいいのに」と真顔でおっしゃってました。ノルマのために生み落とされた「5-6匹目のどじょう」や「一人よがりのぼやき」などを売らされる営業や書店員の気持ちは……たしかに想像するだけでおそろしく、我が身を振り返って背筋がピンとなりますな。
手もとの『新文化』によりますと、06年5月期の新刊点数は6,410点、単行本だけで3,756点。いやもう、ただ笑うしかなく。

自分たちが手がける書籍が、人のお金とお時間を頂戴する商品であることを重々承知しつつ、それでいてノルマにしてしまうことなく、印刷所や書店など関係者の「多謝実現」を可能にするサービスを目指す……版元の心構えとしてはいささか異質かもしれませぬが、かくありたしと思います。

さて、そのために、自分はなにができるのか。
私が今すべきことは──

こんな長文を書くヒマがあれば、さっさと書店へ出向くこと。

は〜い〜。

お粗末さまでした。

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