版元ドットコム

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〈民衆の敵〉と版元ドットコムの総会

 6月2日に開かれた版元ドットコム総会と出版流通研究会に参加しました。研究会、総会、そしてその後の懇親会の詳細は、おそらく事務局の報告で概要がわかると思いますので、参加した感想と研究会で発言した者として言い忘れたことを書かせていただきます。
 今回の集会では、2日13時からの「地方出版社・小出版社 流通研究集会」で「版元ドットコムの使い勝手」をテーマに話をする機会を与えてもらいました。
 昨年の夏だったと思いますが、上京した際、ポット出版の沢辺さんと飲んでいて、「地方の出版社こそ、もっと版元ドットコムに参加し、活用すべきなのに…」という話になって、そのいきがかり上、岡山のぼくが報告することになったのです。その当時、いわゆる地方でその地域をテーマに出版活動をしていた会員社は、北海道亜璃西社と長野オフィスエムなど数えるほどしかなかったと思います。
 地方の出版社は、その地理的ハンディキャップを少しでもカバーしようと、どの社も比較的早い時期から自社のホームページを公開してきました。しかし、多くは積極的な活用がなされているというところまでいっておらず、必要な読者と十分つながり切れていない、つまりホームページでの紹介が本の注文・販売などに生かし切れていないケースが多かったのではないでしょうか。
 小社を例に振り返ってみても、Amazonやbk-1といったオンライン書店、ヤマトのブックサービスなどといった新たな販売チャンネルは、版元ドットコムに参加して、はじめて現実のものになったのです。
 とはいいながら、基本的な書誌データの登録などといった程度しか活用しきれていない小社が、版元ドットコムの使い勝手を云々など報告できるはずもなく、じゃあ何を話せばいいのか、準備の過程で「地方出版にとって版元ドットコムはどんな存在なのか」、「自分自身としては版元ドットコムに何を求めるか」ということを話そうと思い、前日までその骨子を考えていました。
 たまたま燐光群の舞台公演(http://www.alles.or.jp/~rinkogun/minshuunoteki.html)に招待されていたので、版元ドットコムの集会の1日前に上京し、その日の夜、俳優座劇場で岡山出身の坂手洋二が率いる燐光群の舞台「民衆の敵」を見に行きました。不正に直面して行動する人間たちの姿を皮肉っぽく、ユーモアを交えて描いた作品で、汚染が判明した温泉施設の改修を主張する主人公に対し、住民たちは町益を損なう〈民衆の敵〉となじる。孤立した大浦みずきが演じる主人公(温泉施設専属医・スドウトモコ博士)は、「この世で一番強いのは、たった一人で立っている人間だ」と観客に向かって宣言するのです。
 まさに今日的な社会を描いている作品で、社会のさまざまな仕組みの大きな流れのなかで、「それってちょっと変じゃない」「それは間違っている」ということを言いにくい状況とその怖さを描いていました。だからこそ一人でも立ち続ける強さを持つことの大切さと、その意志を支える事実に向き合う謙虚な理性(知性=知識)が必要なんだと−。
 これって、版元ドットコムが目指すところと同じではないか−公演後、六本木で夜遊びをすることもなくホテルに帰り、集会での報告のレジメをまとめながら、そんなことが頭をよぎったのです。
 つまり、規模が小さくても、地方であっても、出版社としての自立を自らの力(自分たち自身の頭と体)で獲得し守ろう、そのためにはさまざまな疑問や課題を一つひとつ自分たちの手で解きほぐし、獲得した知識・技術を共有しよう−それが版元ドットコムがやろうとしていることなんだ、と自分自身の腹にストンと落ちたのです。
 このこじつけは、2日の研究集会、総会、そして懇親会の席で参加した人たちと話すことで、確信となっていきました。ブックサービス(株)・久保田妙子さんの「出版社がブックサービスを効率的に利用する方法」、(株)図書館流通センター仕入部部長・田辺明彦さんの「出版社がTRCとbk1をうまく活用する方法」など、利用してはいるけれど、今ひとつよくわからなかったことが、ずいぶんクリアになったように思います。
 また、懇親会、二次会の席で参加各社との話を深めていくにつれ、Amazonの機能の活用方法や紀伊國屋パブラインの利用法、版元ドットコムのファクスサービスなど実践的で参考になる話が次々と出てくるのです。
 やる人たちはやっているんだ−このことに気づかされたのが、最大の収穫だったかもしれません。
 版元ドットコムは、会員になったから何かを得られるのではなく、得たいものをどのようにしたら手に入れることができるのかを、いっしょに考え、そのための背中を押してくれる、そんな会じゃないかと思います。そういう意味では、ほんとうに身の丈にあった使い勝手のいい会だと思います。
 これまでは名前だけ、メールだけでしか知らなかった長野のオフィスエムや滋賀・サンライズ出版など地方出版社の人たちと交流することができ、版元ドットコムの存在は、地方の小さな出版社にとってとても力強い存在だということを再認識しました。
 メールも便利だけれども、こうやって顔をつきあわせて話すことで得られるものって大きい……帰りの新幹線の中でそんな当たり前のことをしみじみ感じました。

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