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“ゴルゴ13”がいた!

『国家の罠』(佐藤優著、新潮社)(アマゾンで購入)という、めちゃくちゃ面白いノンフィクションを読んだ。ベストセラーになっているので読んだかたも多いと思う。正直にいうと、わが郷里(北海道)の政治家・鈴木宗男氏に対する見方がガラリと変わった。本書を読むまでは非常に恥ずかしい政治家、北海道の恥だとまで感じていた。『鈴木宗男研究』(加藤昭著、新潮社)(アマゾンで購入)など大ベストセラーの影響もあり、あの当時はそういう報道を鵜呑みにしていたが、そういう自分が恥ずかしい。事実はすこし違うのかもしれない。外見がパッとしないし、スキャンダルまみれだが実際には功罪両面のある政治家のようだ。
鈴木宗男氏と共に、2000年を目指して、日露平和条約締結、北方四島返還のために、寝食をわすれ、死に物狂いでひたすら尽くした外務省の元主任分析官が著者の佐藤優氏。この人について、本書を読んで感じた第一印象は「ああ、日本には、本当の“ゴルゴ13”がいた!」というものだった。もちろん、この人はスナイパーではないからゴルゴとは決定的に違うが、読んだ途端にデューク・東郷を思い浮かべた。冷静、沈着、情報収集、情報分析、歴史認識、政治状況把握、人間観察、語学力、などなど、一級のスパイとして必要な要素をすべて兼ね備えた人物で、記憶力抜群で非常に頭のいい、しかも精神的に強く、筋の通った人で、国益のためと信じて鈴木氏と行動を共にしてきた外交官。この人は1960年生まれで、同志社大学神学部大学院卒業という異色の経歴の持ち主。組織神学を学んだ知識をフルに生かして、ソ連での外交官時代にはロシアの政治家たちに神学の初歩的な講義をして、好評を博したようだ。政治家たちの懐に深くに入り込み、情報を収集し、しかも国益の為に活躍した人が、なぜ犯罪者として容疑をかけられたのか?
「国策捜査」という国家が作り上げた犯罪の罠に落ちた、と記されている。背任と偽計業務妨害の容疑で捕らえられ、512日間拘留されている。「国策捜査」とは時代のけじめをつけるために仕組まれたもので、国家のパラダイム変換を迫るときに用いられるという。簡単にいうと、小泉政権誕生以来、「地方を大切にすると経済が弱体化する。公平分配をやめて金持ちを優遇する傾斜分配に転換するのが国益だ」ということを鮮明にすることと、「国際協調的愛国主義から、より過激な排外主義ナショナリズム」への転換だ。このときに邪魔になり嵌められたのが鈴木宗男氏。鈴木宗男氏を政治家として抹殺するために一緒に犠牲になったのが著者・佐藤優だった。この「国策捜査」をめぐる西村検察官とのやり取りが本書の後半のかなりの部分を占めているが、ここが圧巻。ぞくぞくするほど面白い。初めて“国策捜査”という恐ろしい事実を知った。詳しくは本書を読んでほしい。いま、この国でなにが起ころうとしているのかが明確に記されている。
著者の獄中での読書量はすさまじい。質量ともに圧倒される。特に『旧約聖書』の「イザヤ書」「エレミヤ書」「エゼキエル書」などを獄中で読んでいる時、これらの書物を書いた預言者たちが、時空をこえて著者の独房を訪れ、親しく語り、厳しい著者の独房生活を支えた、ということに強く打たれた。鈴木宗男氏は著者の逮捕される直前に「どんなことがあっても早まったまねをしたらだめだぞ」と電話をしてきたが、著者はそれに対して「先生、わたしはこれでもクリスチャンですから自殺はしませんよ」と答えている。歴史を支配するのは神だという思いが著者にはあったし、歴史がすべてを証明するとの確信があったのだろう。
しかし、「真実とは何か」は、やはり謎である。著者と違う立場で書かれた本(前出の『鈴木宗男研究』)には本書とは異なるおどろおどろしい佐藤優像が描かれている。いずれにしても、佐藤優氏の文章、語り口には読者を虜にする何かがある。
あとがきに記された、本書の編集者・伊藤幸人氏(新潮社)や岩波書店編集部の人々と著者との交流は、出版という仕事の可能性、素晴らしさを感じさせてくれた。出版に携わる人間ならば、本書は絶対に目を通していただきたい。あまりの面白さに、あっという間に読了してしまうはず。付箋を用意してぜひ熟読を。

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