御徒町通信
もう半年たちましたが、去年(2004年)の暮れに社屋が移って、明石書店は住所が文京区湯島から千代田区外神田に変わりました。といっても、以前の社屋から歩いて5分。通りを挟んで向かいは台東区上野という、ちょうど三つの区が互いに隣接する土地です。なお、湯島は現在、編集分室になっています。
わたし個人に限ってみれば、最寄り駅が御茶ノ水から御徒町に移ったことで、通勤の風景は一変しました。御茶ノ水のときは、映画『珈琲時光』にも描かれた聖橋から神田川下流を臨む風景(中央線と総武線と丸の内線の3線が立体交差している)を朝晩飽きずに眺めていたのに対し、現在は御徒町のオシッコ臭いガード下を徘徊する日々です。
一番困ったのは近所に本屋がないことです。以前最も利用していたのはオチャマル(お茶の水丸善)で、元気があれば神保町まで足をのばすこともできました。東大生協(本郷)もよく利用していた覚えがあります。しかし、御徒町ときたら…。ようやく見つけたのが明正堂NTT上野店で、ここは宝石卸の多い街という土地柄を反映してか、宝石関係の雑誌や単行本だけを集めた棚があったりと、なかなか楽しめる所です。
ところでみなさんは、本屋さんのレジの隅っこや、階段の踊り場になにげなく置いてある出版社のPR誌をご存知ですか。あれって、タダでもらっていいんですかね(いちおう値段ついてるんだけど…)。言えばくれるのは知ってるんだけど、面と向かって言うのはなんか気恥ずかしい。だからわたしは、買った本を渡すときに黙っていっしょに差し出してみたり、書店員がレジにお金を取りにいっている間に、さっと自分の手元にキープしたりと大変な苦労をしています。でもそのたびに、「ちょっと、お客さん」と呼び止められたり、「ハイ、こちらは100円になります」と言われたらどうしようと常にビクついています。という具合に、レジでPR誌をもらうのは、ある種のうしろめたさを感じないわけにはいきません。
その点、明正堂は気前がいいんです。というかハッキリしていて、店の入り口にワゴンが置いてあって、各出版社のPR誌、新刊案内、図書目録が山と積まれています。店の外なので、ほとんど気兼ねする必要がなくもらうことができます。
そのほか御徒町には、都内で唯一、平日に朝湯をやっている銭湯・燕湯があります。朝6時からやっているので、たとえ仕事で徹夜をしても、翌日はサッパリしてから再び仕事に向かえるというものです。なかにはすっかり朝湯のとりこになって、毎朝あかい顔をして出勤する者まで出てくる始末です。いちどだけ、わたしも会社で夜を明かして燕湯に行ったことがあります。家の近所の銭湯とくらべると、やはりここは下町のせいか湯が熱すぎて長く浸かっていられないのですが、そのあと上野公園までぷらっと散歩に行きました。一仕事終えた朝は、みょうに清々しかったことを覚えています。