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笑う門には福来る

 正月から梅が咲く頃まで、私が住む湯島は多くの人が行き来する。泉鏡花の『婦系図(おんなけいず)』の舞台として有名な湯島天神に受験生が殺到するのである。
受験生の行動パターンはだいたい決まっている。絵馬に志望校を書き、神殿で参拝し、お神籤をひき、お守りをゲットである。受験を目前にして余裕がないことは理解できるが、折角の機会なので、是非、境内を散策してリラックスしてみるのはどうだろうか?「男坂」を昇ったところに明治の文明開化の象徴とも言えるレトロな「瓦斯灯」がある。瓦斯灯の登場によって、人々は夜も外出するようになったという。現在、東京の瓦斯灯は電気灯に置き換えられている。東京の屋外で「瓦斯の光」を見ることができるのは、この一灯だけである。
友達と待ち合わせをする場所は?最近は携帯電話があるので問題ないだろうが、江戸時代のようにお洒落に待ち合わせてはどうだろうか?境内に「奇縁氷人石(きえんひょうじんせき)」という石碑がある。これは縁結びの石であり、迷子しるべ石でもある。江戸時代には迷子や尋ね人を捜すために掲示板代わりに使っていたという。
因みに、湯島天神から少し北側に歩くと「無縁坂」がある。これが森鴎外の『雁』の主人公である岡田の散歩コースである。受験生には縁起が良くないので、無縁坂は今回はパス。しかし、一度散歩しておけば、鴎外の作品が試験に出ても大丈夫かも。湯島の切り通し(春日通り)を下って行くと南側に位置する上野1丁目には社団法人落語協会(黒門亭)がある。2階では週末に落語が聞ける。まっすぐ松坂屋前の上野広小路交差点まで進むと末広亭、そしてその交差点から上野公園の方向に進むと1857年に開場した日本最古の寄席である鈴本演芸場。そう、上野は落語のメッカである。おもいっきり笑って福の神を掴んでみるのはどうだろう?
「江戸の三富」(現在の宝くじ)として有名だったのは、谷中の感応寺、目黒の瀧泉寺、それに湯島天神である。境内は熱狂した人々で熱気に包まれていたという。
その様子を伝える落語がある。富久(とみきゅう)、別名は富の久蔵である。あらすじを紹介してみよう。「正月を越せない」と借金に困っていた幇間(ほうかん−客の機嫌をとり、酒宴を盛り上げることが仕事)の久蔵は、大金が転がり込むといわれて、残りものの富籤を買う。富籤を自宅の大神宮様の神棚に上げた後に寝込んでしまう。夜中に目を覚ますと半鐘の音が聞こえる。ひいきだった旦那の辺りが火事と聞いて駆けつける。幸いにも旦那の家は被害がなく、そこで火事見舞の酒をご馳走になるが、深酒をして寝込んでしまう。
未明に旦那に起こされる。今度は、自分が住んでいる長屋の辺りが火元であるとのこと。急いで駆けつけるが長屋は既に丸焼け。意気消沈した久蔵は、旦那の家に居候となる。
後日、湯島天神に立ち寄る。すると富籤の抽選が行われており、久蔵の買った富籤「松の百十番」が大当たりとなる。しかし、無情にも肝心の当たり札がなくては駄目と告げられる。
首を括ろうかと、とぼとぼと浅草方向に歩いていると、「大神宮様の神棚だけは持ち出しておいた」と近所の棟梁から思ってもみなかった朗報。大急ぎで神棚を調べていると、確かに富籤が。
「春から縁起が良いじゃねぇか。そんな大金どうする」と棟梁の尋ねに、久造は「大神宮様のおかげでございます。ご町内の御払いをします(借金を返して、大神宮に寄付する)。」
お後が宜しいようで。

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