私は本が嫌いだった
私は、高校の頃からずっと、本が嫌いだった。
正確に言うと10年、本が読めなかったのだ。もちろん教科書も。言葉が、文章が、頭に入らないのである。だから、身の回りの活字は、生活から排除していたほどだ。たまに読むのも雑誌だけ。そうなったのは、高校3年の時の転校から。今思えば、ウツの傾向があったのだろう。本人は、どうして読めないのか、内容が理解できないのか、悶々と悩んでは、自己嫌悪の日々を送っていた。
ほんとうに運良く径書房に拾ってもらった。もちろん、本嫌いは内緒で。でも、そんなことも言っておれず、本を手にすることに。私が入社して初めて読んだ本が弊社の『ゴーマニズム思想講座 正義・戦争・国家論』だった。何しろ思想とか正義とか、あまりにも私の暮らしとかけ離れているようで、正直おもしろいのかな? 理解できるかな? と半信半疑だったのだが……これが、すこぶる面白かった。学生の頃教わったはずの「民主主義」という概念をこの本で社会学者・橋爪大三郎氏と哲学者・竹田青嗣氏に学んだ。そして、「私でもきちんと社会と関わることができる!」と思えるようになった。これは、私の人生の中で、大事件だった。こんなに堕落した日常を過ごしてきた人間でも、「本当のことを知ることができる」こと、「社会と自分のことがわかる」ことを実感できて、身震いするほど嬉しかった。広く明るい世界が目の前に開ける感じ。「あ、わかった!」の気持ちよさを知って、自己嫌悪から少し解放された気がした。
最近、自分の大切な小説に出会って、さらに本の面白さが広がった。まさに、本との出会い。人文書とは違う、物語にのめり込む楽しさに引き付けられている。これぞ、快・感……。読者をぐいぐい引っ張る文章、日本語の美しさや強さ。テレビドラマや漫画より、ぜんぜん面白い! 本から、目が離せない。止められなくて、あっという間に夜中に。読後の余韻がまた、たまらない。今、私のお気に入りは昔の大衆文学。三浦綾子『氷点』に始まり、有吉佐和子『悪女について』、谷崎潤一郎『痴人の愛』、田山花袋『布団』などなど、めくるめく世界にくらくらしながら夢中になっている。この後は内田百間、夏目漱石が書棚に鎮座ましましているのだ。つくづく楽しい。
今さらながら気付いたことは、「読書は楽しい」ということ。
最近、小・中学校では、「朝の読書」の時間を設けていると聞く。ああ、私の学生時代に「朝の読書」があったら、もっとずっとたくさんのワクワクやゾクゾクする本に出会えていたかも……と思うと、何とも口惜しい気持ちと、羨ましい思いで一杯だ。教育によって本好きの子どもが増えるとおもうと、日本の将来も捨てたもんじゃあない、と思えて嬉しい。がんばれ「朝の読書」。
私はたまたま出版社に入って、遅ればせながら本と著者と幸せな出会いをしている。これは、編集作業をしていると、なおさらで、一冊の本の魅力の全てを知り尽くせるという、この上なく素敵な現場に立ち会える。ここから、少しでも、一人でも多くの読者に、魅力満載の本を届けられたら、こんな嬉しいことはない。
皆さん、本とたくさん出会ってください。幸せが少し広がります。必ず。
径書房 秋のオススメ本
・爆笑必至 『不美人論』
・社会をより深く 『近代哲学再考』
・自分らしく 『自分を好きになる本』『おとなになる本』
・センチメンタルに『泣こう』
・スタイリッシュに『ひとり暮らしののぞみさん』『女は何を欲望するか』