誰のためのICタグか?
最近、新聞などで、ICタグについて「次世代の……」「情報革命」といった記事が躍っていますが、出版業界で本当にうまく活用できるのか、小零細の版元や書店では使えないのではないか、万引き防止対策ばかりいわれているけど本当に防止できるのか、などなどの意見を耳にします。「そもそもICタグってなに?」という意見もありますが、もう少し関心をもってほしいなと思います。
先日、『ICタグの仕組みとそのインパクト』(ソフト・リサーチ・センター) を読んだ。そのなかで、出版業界での利用用途として「在庫管理」「返品管理」「盗難防止」が挙げられていました。これでは版元、取次、書店のことしか考えられていません。いちばん大切な読者のことが考えられていません。読者にはどういったメリットがあるのか、また、デメリットは?と思わざるをえません。
昭和図書越谷物流センター(埼玉県越谷市)でおこなわれた模擬実験では検品がうまくできなかったりもしていましたし、『インターネットの不思議、探検隊!』(太郎次郎社エディタス)にはじめてICタグを装備して、ICタグの耐久度を調査していますが、結果、4カ月ほどの期間で生じた返品のうち、約1割の書籍のICタグが壊れていたそうです。店頭在庫のことも考えると、2、3割のICタグが壊れているかもしれません。これらのことをふまえても、実験段階とはいえ、信頼性や耐久性に関してはまだまだ先は長いです。
ほかにも、今後も問題として残るのは、プライバシー問題でしょう。上記書籍の発売元である太郎次郎社のサイトにもあるように、アルミホイルをかければ読みとれなくなりますが、逆にいえば、アルミホイルや鉛を本のまわりにつけておけば(たとえば、バッグのなかをアルミホイルで覆ってしまえば)、万引きできてしまいます。とはいえ、双方の問題をいっしょに解決することは無理かもしれません。最重要課題でしょう。
ほかにも「タグの価格」「システム導入費用」の問題もあります。タグの価格が4円以下にならないとコミックには装着できないという意見もありますし、小規模の版元や書店ではシステムに何百万円もかけられないでしょう。それだったら万引きされたほうがいいやと思う書店さんもあるかもしれません。まだバーコード対応のレジを導入していない書店さんはなおさらでしょう。版元でも既刊本でタグが装着されていないものには個々のデータを入力したうえで装着して出荷しなければいけません。消費税が導入されたときのように断裁、絶版というわけにもいかないでしょう。すべての書籍にICタグが装着されるのには、常備などの社外在庫のことも含めて、何年もかかるかもしれません。まだまだ問題は山積みです。
否定的な言葉ばかりを述べましたが、うまく進んでいる面もありますし、メリットもかなりあります。これらのことは別の機会に書こうと思ってます。また、わたしは日本出版インフラセンターの ICタグ研究委員会に参加していますので、本当にICタグを導入する必要があるのか、誰の、なんのためのICタグ導入なのか、誰もがメリットを多く感じるためにはどうしたらいいのか、どうやったら小規模の版元や書店でも参加できるかなどを提言していくためにも、多くの人たちから意見を聞いて、よい方向に進めるように委員会で発言していきます。