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日台文化交流フォーラムのこと

日台文化交流フォーラムが11月9日に東京で開かれた。6月開催予定が例のSARSで延期になっていたものである。
このフォーラムでは台湾の作家たちとの交流がその課題であったが、漢族作家だけでなく、台湾原住民作家のふたりが招待されていることは特筆に価する。「台湾原住民が作家として日本で初めて主賓に坐って発言したという意義は重いと思う」(柳本通彦氏評)。
草風館では『台湾原住民文学選』全5巻をただいま刊行中、3巻まで出した。上のふたりは、第2巻のシャマン・ラポガン、第3巻のワリス・ノカンである。おかしなことだが、おふたりが会うのは今回日本で初めだということ、シャマンは蘭嶼島(タオ族)、ワリスは台中県の山中(タイヤル族)、いわば海の民と山の民のふたりの出会いである。このふたりに共通しているのは文学活動だけでなく、いわば文化工作者として活躍していることだ。ワリスは山の中で教育を通じて反同化、伝統文化の復興に、シャマンは日常的には漁業に従事、ちなみに第2巻に収録されている彼の長編「黒い胸びれ」は魅力的な海洋文学である。また蘭嶼は台湾の六ヶ所村、つまり核廃棄物集積所なのだ。シャマンがその対策に奔走もせざるをえないのもむべなるかな。またこれは世界中の先住民族に共通の運命だが、かれらは生まれ故郷では食べられず、都市に出、そこで挫折して、というより伝統を捨てさせられ、差別の中で生き延びていけないずに、故郷に帰るという、通過儀礼のようなお決まりのコースをたどって目覚めていったのだ。来日中はこのおふたりはまったく兄弟のようにぴったり行動を共にし、またよく飲んだ。そんなに飲んだら肝臓がいかれるぞ、というのも、日本のアイヌ民族にされる忠告と同じではないか。
いま台湾では原住民族(これは自称)の復興運動が盛んである。芸能界、スポーツ界では昔から彼らの活躍はよく知られていたが、自己の内面を見つめていく文学の世界でもこれから華を咲かせていくにちがいない。下記の文章はこの文学選第4巻の編訳を担当している台湾在住の柳本氏のエッセイである。転載を許可されたので、ご紹介する。もとは写真が貼り付けてあった。

ASIAPRESS TOP PAGE<フォト・エッセイ>2003年11月10日
ムササビ学校 (台湾)
文・写真 柳本通彦
台湾のパイワンという小さな民族である。
サキヌ、42歳。小さい頃は、日本語で「リクツ」とよばれていた。あれこれ理屈をきいて反抗したせいだという。高校卒業と同時に山を下りたリクツは、カネがないので無償の警察学校に進み、台北でケーカンになった。そして、ある晩、ひょんなことから、鉛筆を握った。
幼い頃、父に連れられて、山を巡り、ムササビ、サル、イノシシを追った記憶が切なく甦った。それが思いがけず本になった。そして文学賞を受賞し、ベストセラーになった。さらに、かれは、CDも出し、童話も書いた、いつのまにか、作家と呼ばれるようになった。
父は、猟師だ。山を舞台に繰り返される生命の営みを知るうちに、獲物を人間と同じ存在ととらえるようになった。息子に、ムササビには学校がある、イノシシはおれたち猟師のファイルを持っていると教えた。息子の本が出てから、彼は、「台湾最後の猟師」と呼ばれるようになり、二人は台湾でもっとも有名な原住民の父子となった。
人口40万の台湾原住民族のなかから、ものを書き始める人たちが、ここ十年間に、どっと輩出した。その多くが母や父のことを書いた。40代前後、子どもが小・中学校に上がる世代である。時代の狭間で、民族の言葉すらほとんど話せないわが子の成長を見て、原住民の匂いをまだ濃厚に発している両親のことを書き記すことで、失われゆく民族の魂を残そうとした。
どうしても書き留めずにおれなかった、彼らの作品群が来年早々にまとめて邦訳され出版される(『台湾原住民文学選第4巻草風館刊)。そこから、日本人、中国人と、百年にわたって異民族に支配され続けた、小さな民族の哀切なる逞しさが迫ってくる。

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