憧れの第四惑星
そういえば、今年こそが2003年だった。
2003年といえば「火星大接近」の年である事を、僕は思い出した。
もっと正確に表現すると、メディアで話題になった事に触れて、僕は、2003年が「火星大接近」の年であることを知っていた事、を思い出したと言ったほうがいい。
小学生の頃、図書室の図鑑を見て、僕はそのことを知っていた、そして、無性に憧れた…はずだったが、すっかり忘れてしまっていた。
ついでに、火星の衛星がフォボスとダイモスという事も思い出した。
当然のように、今となってはあんまり役に立たないことだ。それから、
あの頃、天体望遠鏡が欲しくても買ってもらえなかったことも思い出した。
……
でも、2003年には、僕はもう大人になっているから、きっと天体望遠鏡で、大接近した火星を見ていることだろう…待てよ、2003年といえば、もう21 世紀じゃないか。科学が発達した新世紀には、戦争なんてもう無くて、人類は宇宙へ進出しているはずだから、ひょっとしたら大接近した火星に、僕は向かっているかもしれない…
そんなことを妄想しながら、ポコポコ歩いた帰り道の、秋の夕暮れの原っぱの匂いまで、思い出してしまった。
そこで、現在の僕は、ちょっと愕然とする。
いつの間にか僕は、天体望遠鏡をもっていない、大人になってしまっていた。
……
でも、そんな事を言えば、いくら21世紀になったと言ったって、あいかわらず戦争は続いているし、人類の宇宙進出は遅々として進んでいないじゃないか。それどころか、原っぱの匂いまで無くなってしまった。
天体望遠鏡が何だ、どうせ東京からじゃ火星なんて…
そんなことを考えながら、ポコポコ歩いた帰り道の、
ふと見上げた、高層マンションとコンビニのネオンの隙間の夜空に、憧れの第四惑星が、赤く赤く輝いていた。ちょっと泣けた。