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「報復」をめぐって

 2001年4月の「改正」少年法施行によって、被害者が少年事件審判の記録開示を受けることが可能になった。これは被害者側の権利拡張の動きにのって進んだ法改正の一部といえるのだろう。ただし、被害者側の権利といっても無制限に記録が開示されるわけではなく、裁判所の裁量のもとに開示されることになっている。
 今年の夏に起きた長崎の幼児殺害事件では、被害者遺族に対して家庭裁判所からかなりの記録が開示されているらしい。ここで、らしいと書いたのは、週刊誌に掲載されている記事から判断してのことだ。
 少年審判記録を被害者に開示するという「改正」の主旨は被害者の権利を尊重するためということだったが、果たして今回の記録開示がその主旨に則っているといえるのか。もちろん、被害者遺族にしてみれば、自分の子どもがどのような犯人に、どのように殺されたのかを知りたいという希望があってもおかしくはない。また、やがておこすであろう民事裁判にも必要な事柄もあるだろう。
 しかし、週刊誌で報道される内容から判断して、開示されている資料は少年から聴取した記録のほぼそのままのものではないのか。少年事件の家裁による調査は刑事処分を科すためのものではなく、少年の更生のために事件の背景や生育歴に至るまで細部にわたって進められる。事件の様子を聴取した部分は被害者遺族にとっては耐え難い内容も含まれるだろう。事実、少年は彼自身も幼いときに同じような性的虐待を受けていたことを語っている。しかし、そのことが、週刊誌の記事では責任を他人に転嫁しているという記事に「歪め」られる。この「歪み」は、記者の解釈が混じっているのかもしれないが、被害者の感情を反映したものといえなくもないだろう。
 今回の事件では、加害者の親を「市中引き回しのうえ、獄門に」などという政治家の発言も飛び出したが、加害者に対する報復を唱える声が過剰であることが気になる。被害者側に開示された資料を使っての週刊誌記事にしても、あまりにも報復的な内容であり、開示資料がそのような目的に使われていくようでは、せっかく道が開かれた被害者の権利も裁判所の判断によって後退していくのではないか。そもそも今回の裁判所の開示にあたっても、開示の時期やレベルについてその判断が適切だったのかを論じることも必要なのではないか。最近の民事判決にあるように被害者の命日に毎月(あるいは毎年)、賠償を支払えというのも、加害者・被害者の関係を修復する判決というよりも「報復」と考えられかねないような内容ではないのか。
 少年事件だけではなく、北朝鮮の拉致問題に対する在日朝鮮人に対する嫌がらせからテロと戦争の繰り返しに至るまで、「報復」を軸に様々な政治情勢が動いている。この社会の先行きの不安に乗じて人々の憎悪を組織して「報復」に駆り立てる。「報復」を軸に現在をとらえ直す必要があるように思えてならない。

2003年8月25日 明石書店編集部 黒田貴史

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