22年間の重み
22年という時間は,人の人生にとってどれほど重みがあるのでしょうか.少なくとも,一口では語りきれません.赤子が若者へ,青年が壮年になれるだけの時間です.
よくいっしょに仕事をする方で,その22年間を病院の中で過ごした人がいます.
彼は,つい3年前まで,民間総合病院の精神科の閉鎖病棟で「生活」していました.退院してしばらくの間,
「22年間は夢のように過ぎました.病院には,たいへんお世話になりました」
と話していました.
3年が経った今,彼は22年間をこう表現します.
「あそこでの生活は,地獄のようでした」
辰村さんは,23歳で統合失調症(精神分裂病)を発症し,4回の入退院を繰り返してきました.4回目の入院が,22年間でした.今,65歳ですので,人生の3分の1の長さをそこで過ごしたわけです.そして,今もなお,辰村さんの入院していた病院には,30年以上の長期入院をしている方が何人もいます.住む家がない,働く場がない,安心していられる場がない,生活を手助けできる人も機関もない……といった社会的制約のために退院できない.そんな人たちが,全国には7万人以上いるとも言われています.
辰村さんの22年間の体験は,何度聞いてもさまざまな感情が湧いてきます.病院の中で労働力として使われていたこと,入院患者宛の手紙は必ず1度封が開けられていたこと,他の患者が外に電話をかけるときは内容を聞いて報告しなければいけなかったこと……
発病した彼に降りかかってきたことは,社会の仕組みや考え方によって起こる,さまざまな矛盾でした.無数にある病気の中の1つにかかっただけで,とたんに自分の思うように生きられなくなり,「普通に」生きることさえままならなくなる社会……彼の体験談は,「何となくうまく生活できている」うちは見過ごしがちな社会の矛盾を,鮮やかに浮かび上がらせる力を持っています.今,1人の人間として自分の生き方を貫ける状態にある人は,どれほどいるのでしょうか.
最後に宣伝です.「専門家の書いた本は多数あれど,当事者の視点から書かれた本は少ない」という問題意識からつくり始めた「やどかりブックレット・障害者からのメッセージ」シリーズがあります.そのシリーズの8番目『精神障害者 新たな旅立ち』に,辰村さんが語った22年間がまとめてあります.辰村さん自身も,このブックレットシリーズの編集委員の1人として,企画や取材活動に携わっています.22年間の重みの一端を味わいたい方は,ぜひご覧になってください.